小さな書店「Title」の奇跡 “本が売れない”時代を逆手に 店主に直撃 (2/5ページ)

▽従来の書店ビジネスとは真逆の方向性

 本は「みんな」が毎月のように買うものではなく、「あくまでも本に愛着がある人」が選んで買うものになった。そんな変化を実感していた辻山氏は、ならば売り方を変えればいいという考えに立ち至る。商店街の魚屋さんや花屋さんが来店客の望みに応じてオススメを提案するのと同じように、さりげなく提案するような本の揃え方、並べ方を心がける。この、従来の書店ビジネスとは真逆の方向性が、本との出会いに価値を見いだす読書好きたちに受け入れられ、個人書店としては特筆に値する成功につながったのだ。

 「あの魚屋さんならぴちぴちの鮮魚が買える」というように、選んでもらえるお店になれば、小規模書店でも今の時代に生き残れる。Titleは、まざまざとそれを証明してみせた。

 ここでもう一点、成功要因を付け加えるなら、駅から遠いことを逆手に取って、「わざわざ行ってみよう」という気にさせることに意を尽くしたことが挙げられる。店舗は築70年超の二階建て物件をリフォームしたものだが、銅板張りという時代がかった外壁装飾を逆転の集客要素として巧みに生かした。また、15坪の店舗の奥に5坪のカフェを設けて来店客がゆっくり過ごせるようにするとともに、二階も手狭ながらギャラリーにして展示を行っている。さらにトークショーなどのイベントも時折開催することで、来店意欲を刺激するべく務めているのだ。

 このTitleの成功要因は、業界の事情通で経験豊富な辻山氏だからこそ可能だった部分と、それ以外の書店ビジネス全般に応用可能な部分とに切り分けられる。既出の各種記事では前者については多く語られてきたが、後者への言及はほとんどなかった。

店主の辻山氏にインタビュー