ネスカフェで「ダバダ」と「違いがわかる男」が消えた理由 (5/5ページ)

過去の栄光と“いいお別れ”ができているのか

 そう感じるのは、コーヒー事業の責任者である島川部長がこんなことをおっしゃっていたからだ。

 「レギュラーソリュブルコーヒーはさまざまな一流の料理人の方たちに認めていただき、お店に採用していただいているのですが、そのなかで京都『菊乃井』の村田吉弘さんとお話をする機会がありました。あのような日本を代表する懐石料理のお店で、コーヒーを出すということにお客さまからもいろいろなご意見があったそうなんです。そのことに対して、村田さんは『伝統というものは革新の連続で生まれるんです』というようなことをおっしゃいました。これは『金言』だと思って今も胸に刻んでいます」(島川部長)

 昨年、従来の「バリスタ」の価格を据え置いたままで、IoT機能を付けた「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタi」が発売され、既に40万台が売れたという。このバリスタiはいろいろな意味で革新だった。

 例えば、専用アプリと連携すると、好みのコーヒーをカスタマイズできるだけではなく、遠く離れた家族や友人とコーヒータイムを共有できるのだが、これによってネスレは飲用習慣というユーザーデータの収集に成功した。

 これまでの飲料メーカーは製品が売れたデータを小売店経由や自身の通販で入手することしかできなかった。口に運ぶその瞬間のデータはアマゾンやグーグルであっても取得できない。飲料ビジネスに関わる者からすると宝の山なのだ。

 また、全国35万のオフィス、4000ロケーションにあるというコーヒーマシンが、今後このようなIoTでつながっていけば、全国どこでもバリスタを介して同じサービスを提供できるなど、さまざまな可能性が広がっている。

 ただ、そのようにさまざまな革新を仕掛けている島川部長の考え方はきわめて保守的だ。

 「私自身ITの専門家などではなく、1杯のコーヒーを売っている人間です。どんなにIoTが発達しても、1杯のコーヒーが人の心を豊かにできる、ということは決して変わりません。その1杯のコーヒーのために、時代に合ったサービスやプロダクトを提供していくだけです」(島川部長)

 1杯のコーヒーを楽しむ人のために伝統を守りたい。だからこそ古いものにとらわれず革新に突き進む。ネスカフェ ゴールドブレンドの進化のためには、ダバダや違いがわかる男という過去の栄光との別れは、必要なプロセスだったのかもしれない。

 みなさんの会社は過去の栄光と“いいお別れ”ができているだろうか。

■窪田順生氏のプロフィール:テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター ”モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段--検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。