「8年前に父が亡くなり、近畿地方の実家で自宅葬を営みました。業者から最初に提示された金額は180万円、ところが葬儀後の請求額は追加料金が発生して250万円に増えていました。やむをえず支払いましたが違和感が残った」。その経験を職場で話すと、同僚から「そうそう、仕方なく支払うけど葬儀料金はおかしいよね」という声が次々に上がった。
当時は商品部でギフトの開発をしていた広原氏。「葬儀自体はよくやってくれたのですが、契約書を求めたら『ない』という答え。クルマ一台買えるほどの支出なのに契約書もないのはどうなのか。私自身、仕事では必ず契約書を交わしていたので、不透明さも感じました」。
そこで広原氏は、葬儀料金の明朗化や遺族感情に寄り添ったビジネスモデルを会社に提案する。すると社内の人たちは、広原氏がびっくりするほどの盛り上がりをみせた。上層部も賛同し、事業化が承認されて社内公募で希望者を呼びかけると、予想を大きく上回る人が応募。「それまでの事業とは毛色が違うので人材が集まるか心配でしたが、すごく熱意を持つ人が多かった」(同)。
こうして2009年9月にスタートしたのが、「イオンのお葬式」だ。葬儀自体をイオンが取り仕切るのではなく仲介業に徹する。同社に葬儀を頼むと「特約店」と呼ぶ全国約500の提携葬儀社に委託して、その業者が葬儀を請け負う。葬儀の進行は、葬儀社とイオン双方が持つタブレット型PCにより、リアルタイムで把握できるという。
ところで、一口に葬儀といっても多くの儀式がある。仏式では、遺体を拭き清める(1)湯灌から始まり、(2)納棺→(3)通夜→(4)葬儀・告別式→(5)出棺→(6)火葬→(7)収骨となるのが一般的。
だが高齢化や核家族化が進み、時代の変化もあって葬儀へのニーズは多様化している。身内中心で故人を見送る「家族葬(密葬)」や、通夜や告別式をしないで火葬のみを行う「直葬」を選ぶ人が多くなった。長年、通夜の翌日に告別式を行う形式が続いたが、通夜を行わない例も増えた。親族や友人も高齢化が進み、参列できないケースも目立つ。