アマゾン無敵の源は"マケプレの預り金" 「構造的キャッシュリッチ」の秘密 (3/3ページ)

無利子で運用できる「預り金」

 しかし、アマゾンは具体的にどうやってCCCをマイナスにしているのだろうか。アップルのように、在庫管理の見直しでは、マイナス30日の実現はさすがに難しいと予想される。

 アマゾンのCCCマイナスのからくりは、もちろんこれも公表していないので全貌は定かではないが、その大きなひとつは間違いなく「マーケットプレイス」だろう。第1章で説明したとおり、マーケットプレイスは、アマゾン以外の業者でも出品できる仕組みだ。このマーケットプレイスでは、消費者からの支払いはアマゾンが一括して受けている。その売上から、手数料を数%差し引いて、数週間後に出品者に返しているのだ。

 マーケットプレイスの売上の全額が、まずアマゾンに入金され、それが日を置いて返されるのがポイントだ。この一時の入金を「預かり金」という。アマゾンのCCCマイナスは、「預かり金マジック」が大きいだろう。

 公表されていないが、手数料は大きな額ではないだろう。たとえば、マーケットプレイスで出品業者が1000円の商品を販売すると、アマゾンが手数料として10%とっていたとする。最終的に手にするのは100円程度だ。だが、一時的に、アマゾンの手元に1000円が入る。つまり、売上からアマゾンの手数料を引いた「預かり金」を出品者に支払うまでの期間はアマゾンにとって無利子で運用可能な資金になるのだ。

 2013年時点での試算だが、ある米在住流通コンサルタント(*注1)の仮説では、預かり金でアマゾンが無利子で自由に運用できる額は19億ドルに達すると指摘している。これは、支払いまでの期間を2週間と仮定して計算をした場合の数字だ。マーケットプレイスの流通総額を550億ドルと試算し、総額の約9割を2週間後に業者に支払ったとして計算すると、550億ドル×0.9÷1年(365日)×14日=19億ドル。アマゾンはマーケットプレイスを運営することで、日本円にして、常時2000億円程度の自由に扱えるキャッシュを手にしていることになる。

 これはあくまでも2013年時点の推論だ。マーケットプレイスが当時より拡大を続けている現在では、この金額はさらに増えているだろう。

 じつは、これはアマゾンのみの専売特許ではなく、他のグローバル企業もこの「打ち出の小槌」を持っている。米アップルの「App Store」や米グーグルの「Google Play」などのアプリも同じような仕組みだ。とはいえ、2017年のApp Storeの売上は約265億ドルなので、2013年時点のアマゾンの半分以下である。アマゾンに比べてぐんと規模が小さい。

キャッシュ先取りで積極投資

 ウォルマートも遅ればせながらマーケットプレイスを開設している。これもアマゾンのからくりに気づいたからであろう。ちなみに、楽天をはじめ日本企業はやっていない。日本企業が、馬鹿正直に良い物を作り、設備投資に回してまた良い物を作っている間に、海外の大企業はこのような仕組みでキャッシュを手に入れているのだ。

 また、アマゾンのCCCがマイナスの理由としてよく聞く仮説が、アマゾンが圧倒的な商品購買力を盾に、直販分の仕入れ先への代金の支払いの期間をかなり先に設定しているのではというものである。当然その間にキャッシュが使えるというわけだ。しかし、「いくらアマゾンでも、すべての取引先にそこまで飲ませられるか」とも思う。

 アマゾンはCCCのマイナスの要因については一切語っていないが、マーケットプレイスに積極投資を可能にした金脈があることは間違いなさそうだ。

 (*注1)『ダイヤモンド・チェーンストア』、鈴木敏仁「アメリカ小売業大全2013」(2013年10月15日号)

 成毛眞(なるけ・まこと)

 書評サイト HONZ代表

 1955年、北海道生まれ。中央大商学部卒。マイクロソフト社長を経て投資コンサルティング会社インスパイアを創業。書評家としても活躍。著書に『黄金のアウトプット術 インプットした情報を「お金」に変える』『成毛流「接待」の教科書 乾杯までに9割決まる』『AI時代の子育て戦略』など。

 (書評サイト HONZ代表 成毛 眞 写真=iStock.com)(PRESIDENT Online)