「演奏権」解釈めぐり対立 JASRAC問題 音楽教室が提訴検討
日本音楽著作権協会(JASRAC)が、音楽教室での演奏について著作権料を徴収する方針を決めたことに対し、ヤマハ音楽振興会や河合楽器製作所など方針に反対する音楽教育事業者によって結成された「音楽教育を守る会」が、考え方に歩み寄りがなければ、民事訴訟などに踏み切る方針を固めたことが10日、関係者への取材で分かった。教室内の練習や指導が「公衆に聞かせる演奏」に当たるのか。法解釈をめぐり対立が深まっている。
今回問題となっているのは、著作権法が規定する「演奏権」の解釈だ。同法は公衆に聞かせる目的で楽曲を演奏したり、歌ったりする「演奏権」を作曲家らが専有すると規定。JASRACはこれを根拠に、BGMとして音楽を使うフィットネスクラブ、歌ったり演奏したりする場であるコンサートやカラオケ、音楽講座のあるカルチャーセンターなどから著作権料を徴収してきた。
今回、JASRACは音楽教室に対しても、指導者や生徒の演奏は「公衆の前での演奏」と解釈し「著作権管理の公平性を考えれば音楽教室からの徴収を遅らせるわけにはいかない」と、来年1月から徴収を始める方針を明らかにした。
これに対し、約3300カ所(生徒数約39万人)で教室を運営するヤマハ音楽振興会や河合楽器製作所などは3日、JASRACの方針に反対する「音楽教育を守る会」を結成した。
同会事務局は「著作権法では演奏権について『公衆に聞かせる目的で』と限定している。教室内での練習や指導は当てはまらない」と説明。「テキストやレッスン用CDの作成、生徒の演奏会については著作権使用料を支払ってきた」とした上で「演奏権の解釈をめぐって歩み寄れなければ、『債務不存在』を確認する民事訴訟や、文化庁長官によるJASRACへの行政指導を求めたい」と話す。
著作権料の分配を受ける作曲・作詞家側からも疑問の声が上がっている。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌「残酷な天使のテーゼ」の作詞を手がけた及川眠子(ねこ)さんは、ツイッターで「音楽教室で『練習のために』弾いたり歌ったりするものから、使用料をもらいたいと思ったことなどない」と発信。歌手の宇多田ヒカルさんもツイッターで「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで」とつぶやいた。
著作権に詳しい立教大の砂川浩慶教授(メディア論)の話「音楽教室で日常的に行われているレッスンは練習であり、公衆に聞かせることが目的とは言い切れない。生徒の多くは子供で、JASRACにとっては将来、音楽を使う“ユーザー”。受講料に大きな影響を与えるほどの著作権使用料がレッスン料に上乗せされれば、子供たちを音楽から遠ざける懸念さえある。音楽文化の振興という共通の立ち位置から、知恵を絞って協議すべきだ」
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昭和14年に設立されたJASRACは、作詞者や作曲者らの委託を受け、音楽の著作権を管理する一般社団法人で、放送局やコンサートの主催者などから使用料を徴収し、権利委託者に分配している。管理する曲数は国内外で350万曲と国内では圧倒的なシェアを誇り、平成27年度の年間徴収額は約1117億円に上るが、使用料徴収をめぐって批判を受けるケースも相次いでいる。
放送局から放送事業収入に応じた一定額を徴収することで、JASRAC管理の曲を使い放題にした徴収方式をめぐり、公正取引委員会は21年、JASRAC管理以外の曲使用が敬遠されるなど同業者の新規参入を阻んだとして、独占禁止法違反で使用実績に応じた徴収方式に改めるよう排除措置命令(昨年9月に確定)を出した。
また、レコード会社の宣伝用CDも使用料の徴収対象としていたことなどに業界の一部から不満が漏れ、27年には多くの人気アーティストを抱えるエイベックス・グループ・ホールディングス(東京)がJASRACへの管理委託の解消を決めたことが明らかになった。(篠原那美、福田涼太郎)
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