地域で育む「見守る目」 広がる認知症徘徊の模擬訓練

 

 認知症で行方不明になる人が相次ぎ、事故に巻き込まれるケースも後を絶たない。家族の介護には限界があり、認知症の人が住み慣れた地域で暮らし続けるには地域ぐるみでの見守りが大切だ。近年注目を集める徘徊(はいかい)模擬訓練(声かけ訓練)はその一例で、各地に広がる。どんな訓練なのか。大阪府高槻市の訓練に参加してみた。(伐栗恵子)

 会話が続かない

 残暑の厳しい9月中旬の住宅街。記者の目の前を、グレーの帽子をかぶり、眼鏡をかけた男性が手押し車を押して歩いていた。服装や背格好などの特徴が事前に提供された徘徊役の情報と合致する、ような気がした。

 「声をかけるときは1人で」「後ろから声をかけない」「相手に目線を合わせる」-。訓練に入る前に受講した「認知症サポーター」養成講座での注意点を思い出しながらしばらく様子をうかがい、意を決して声をかけた。

 記者「こんにちは。暑いですね」

 男性「はい」

 記者「お出かけですか」

 男性「はい」

 うつむいている男性となかなか目線を合わせられない上、短い返事の繰り返しに焦りが生じてくる。何とか男性が「仕事」に行こうとしていることは分かったが、次の言葉を探しているうちに男性は先を歩いていってしまった…。

 ネットワーク構築

 大阪府の北部に位置する高槻市は人口35万人を超える中核市で、高齢化率は26・4%(今年6月末時点)。認知症の人は約7800人と推計され、徘徊対策として、衛星利用測位システム(GPS)端末の貸し出しや、事前登録した徘徊する恐れのある人が行方不明になった場合の捜索協力機関のネットワーク構築などに取り組む。昨年度からは徘徊模擬訓練も始め、市民らが実体験で捜索や声かけの方法などを学ぶ。

 各地に広がる徘徊模擬訓練で、モデル的存在となっているのが「安心して徘徊できる町」を目指す福岡県大牟田市(人口約12万人)だ。訓練は平成16年から始まり、今では年に1回、市内全域で行われる。今年9月の訓練には約2千人の市民が参加し、視察も殺到した。

 高槻市も以前視察に訪れ、参考にしているが、「人口規模の違いや近所付き合いが薄れている都市部の特徴などを考えると、そのまま導入するのは難しい」と同市長寿生きがい課副主幹の国広奈穂子さん。試行錯誤しながら、「ふだんの暮らしの中で見守る目を増やしていきたい」と話す。

 みんな住みやすい

 高槻市の訓練には、約100人の市民や福祉関係者らが参加した。反省会では、「知らない人に声をかけるのは勇気がいる」「声をかけるタイミングが難しい」「会話が続かない」といった戸惑いの感想が聞かれる一方、地域での見守りの大切さを改めて感じたという意見も出された。

 講師を務めた大阪府認知症介護指導者の引野好裕さんは「認知症の人が住みやすい街はみんなも住みやすい街。街中で困っている人がいたら声をかけてほしい。訓練が、何に困っているのかに気づく目を養うきっかけになれば」と話している。

 ■行方不明者は1万322人

 警察庁のまとめによると、平成25年に届け出があった認知症の行方不明者は1万322人で、前年より715人増えた。多くが徘徊中に行方が分からなくなったとみられる。

 保護されても名前や連絡先などを正しく伝えられないケースがあり、今年5月には群馬県内の施設で保護されていた女性の身元が約7年ぶりに判明した。

 こうした問題を受けて大阪府警は先月、身元が分からないまま施設などで保護されている人の顔写真や特徴などの情報を記載した台帳を府内全65署に備え付け、家族らが閲覧できる全国初の取り組みを始めた。