妻に迷惑をかけたくない… 団塊オヤジが料理教室に“殺到”
【団塊男子 青春よ再び】(2)
「包丁は手前に引くとうまく切れるよ」
エプロン姿の男性が和気藹々(わきあいあい)と調理するのは、東京ガスが首都圏中心に展開する料理教室「男だけの厨房(ちゅうぼう)」。現役時代は料理経験ゼロだった横浜市の元教員、武田和広さん(66)は昨年1月、今も現役で働く11歳年下の妻の勧めで初めて受講した。
それ以前はリタイア後も妻に夕食を作ってもらっていたが、今では武田さんが週2、3回、豚汁などを作って妻の帰りを待つ。「ナポリタンを作ると高校生と大学生の子供が喜ぶ。妻との会話も増えた」とうれしそうだ。
足手まとい
同市の元メーカー勤務の男性(66)も現役時代、家事は全て妻任せ。受講の動機を「妻の足手まといになりたくない。それに、僕の方が長生きするかもしれない」と明かす。
受講者はこの数年、リタイアした「団塊の世代」の男性が目立つ。東京ガス都市生活研究所が団塊を含む昭和21~25年生まれの首都圏在住男女約千人に実施した平成25年の調査では、男性の5割超が「妻が不在のときに自分の食事を用意できるようになりたい」と考えていた。専業主婦の多い団塊では、家事・育児をもっぱら妻が担った家庭が多く、「妻に迷惑をかけたくない」という気持ちがあるようだ。
団塊が高齢者に仲間入りし、サラリーマンだった男性の多くが職場を離れ家庭や地域に戻ったが、企業戦士として家庭を顧みず働き続けた彼らの中には、自立できない夫もいる。
夫とすれ違いの生活をしていた妻も多く、夫のリタイア後に夫婦で過ごす時間が増えた人が男女とも約8割。「配偶者に自立してほしい」と望むのは男性の約2割に対し女性は約6割に上り、妻が従来通り自分の生活を続けたいと考えている様子をうかがわせた。
夫がストレス
リタイア後の夫が趣味も仲間もなく、「わしも」と妻についていく様子が「わしも族」「ぬれ落ち葉」などと呼ばれたのは平成元年頃から。最近は夫が原因で妻が体調を崩す「夫源病(ふげんびょう)」が話題になっている。医師の石蔵文信大阪樟蔭女子大教授(59)が命名、23年に同名の本を出版したのがきっかけだ。
石蔵教授は、男性更年期外来で患者に付き添ってきた妻から夫の様子を聞き取るうち、更年期障害のような症状が表れている妻が大勢いると気付いた。夫の何げない言動や存在自体が妻の強いストレスとなっていたのだ。寝込んでいる妻に食事を要求したり、リタイアした途端に妻にまとわりついたりといった夫が原因になりやすいという。
妻のお荷物にならないようにと石蔵教授が開いている料理教室では、「肉はどうやって洗うのか」との珍問が飛び出すなど全くの初心者が少なくない。石蔵教授は「男性の食の自立が、夫婦円満のカギ。おいしくできても感想を求めると嫌がられる。自分で作って自分でおいしく食べる自己完結がベスト」と助言する。
■家庭顧みなかった「企業戦士」
「団塊の世代」では、結婚後に専業主婦となる女性が多かった。女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)は結婚・出産期に低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇する「M字カーブ」を描く。平成14年版厚生労働白書によると、団塊を含む昭和21~25年生まれの女性は前後の世代よりM字型の底が深かった。
一方、男性のサラリーマン化が進み、夫は家族と離れた場で働くようになった。激しい出世競争の中、家庭を顧みずに働く「企業戦士」「モーレツ社員」という言葉も生まれた。昭和61年には、団塊夫婦の「家庭内離婚」を象徴するような名作CM「タンスにゴン。亭主元気で留守がいい」(大日本除虫菊)が共感を呼んだ。
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