「要介護」一歩手前の「孤食」は大敵 高齢者の「フレイル」を防ぐ
高齢者が1人で食事をとる「孤食」のさまざまなリスクが明らかになってきた。1人きりのために栄養バランスがおろそかになり、食への楽しみも薄れがちだ。その結果、体力が衰えて介護が必要になる手前の状態「フレイル(虚弱)」に陥りやすくなる。要介護状態にならないために、食習慣や社会参加の大切さが改めて見直されている。(戸谷真美)
10年続く「食事会」
11月下旬、埼玉県ふじみ野市の同市保健センター。高齢者ら45人が手作りの昼食を食べながら、おしゃべりに花を咲かせた。食事会は同市のNPO法人、ふじみ野明るい社会づくりの会が、10年ほど前から月に1度、開いている。
調理は当日の午前中に約半数の参加者で行う。予算は毎回、1人分3品で300円以内。大学の栄養学科などの協力を得たバランスの良い献立だ。同会理事長の北沢紀史夫さん(74)は「食事会をきっかけに外に出て人と話し、きちんと食べられる機会を作れれば」と話す。
2度目の参加だった同市の森昭雄さん(88)は4月に妻を亡くして1人暮らし。「ぽつんと1人で食べるよりもおいしい」と笑った。最近は自宅でも料理を始め、糖尿病も落ち着いてきた。「主婦には当たり前の料理の知識も、私にとっては貴重。新しいことに挑戦するのは楽しいね」
食のこだわり維持
高齢者の孤食が問題視されるのは、食欲や口腔(こうくう)、嚥下(えんげ)機能の低下と相まって、食の楽しみや関心がなくなり、体力の減退が進む結果、フレイルや要介護状態に陥りやすくなるためだ。
東京大高齢社会総合研究機構の飯島勝矢准教授(総合老年学)らは平成24年から、千葉県柏市の高齢者を対象とした大規模調査研究「柏スタディー」を実施。その結果、フレイルから要介護になりやすい人の傾向が明らかになってきた。
食事に関する調査(約1800人対象)では、「同居する人がいても、3度の食事を1人でとる孤食の人」は、「1日1度でも誰かと食事をする人」に比べ、鬱傾向になるリスクが4・1倍、低栄養になるリスクが1・6倍高かった。こうした傾向は、1人暮らしで孤食の人よりも、同居家族がいる孤食の人の方が高かったという。
国も対策に本腰
飯島准教授らは、研究成果をもとに、11項目のフレイルの簡易チェック表を作成。また、両手の親指と人さし指で輪を作り、ふくらはぎの一番太い部分を囲む「指輪っかテスト」も考案した。ふくらはぎが囲める人は、サルコペニア(筋肉減少症)の可能性があり、転倒などによって要介護状態になりやすいという。
こうした簡易テストは、柏市をはじめ自治体などで予防活動に使われ始めた。また、国も28年度予算に初めてフレイルの対策の一つとして「高齢者の低栄養防止・重症化予防の推進」に、10億7千万円を計上。75歳以上の高齢者に対して、管理栄養士や歯科衛生士らの相談や訪問指導を充実させる考えだ。
飯島准教授は「フレイルの予防には、身体的な面だけでなく、精神的、社会的な面もある。生きがいをつくる『高齢者の社会参加』という処方箋をどう書くか。地域全体で取り組む必要がある」と話している。
【用語解説】フレイル
日本老年医学会が平成26年に、英語のFrailty(虚弱、衰弱)の日本語訳として提唱、予防啓発に取り組む。厚生労働省は「加齢とともに、心身の活力(筋力や認知機能など)が低下し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの危険性が高くなった状態」と定義。身体的問題だけでなく、鬱などの精神・心理的な問題、独居や経済的な困窮など社会的な問題も含む概念。
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