サテリテは毎年4月に開催されるミラノ国際家具見本市に併設される若手デザイナーの登竜門とされるイベントだ。世界各国からデザイナーが集まり各ブースでアピールする。35歳以下が参加条件であるから芦沢さんはギリギリだった。その時の感想をこう語る。
「展示会はお金がかかる。無駄金といわれればそうかもしれない。でも多くの来場者、メディア、メーカーと話すことによって得たものは多かった」
彼は英語に万全の自信があったわけではないが通訳を頼むことはなかった。潜在クライアントと直接話してこそ自らの考えが伝わる。そう確信した。声をかけてくれたメーカーに展示会終了後、プロトタイプを抱えてメーカーのオフィスへと足を運んだ。しかし会場でかけられた賞賛の言葉とは裏腹に商売となると渋い意見を聞くこともあった。お客さんが納得する説明の仕方を探し求め続けた。
結局、2回出展。何百という見知らぬ人にモノを見せコンセプトを英語で伝える。その後も色々な国のデザイナーが集まるワークショップに参加し自分の考えが伝わる術を磨いてきた。あるとき「いつの間にかあの苦手意識が消えていた」と気づいた。
彼はよいデザインをするが、名前が独り歩きするタレントデザイナーではない。裸一貫の戦いだった。