「血圧の薬は血圧を下げれば良いわけではない。大事なのは脳卒中などの合併症を減らし、最終的に長生きできるかどうか」と話す名郷直樹院長(三尾郁恵撮影)【拡大】
--論文捏造(ねつぞう)の疑いを持ったのはいつか
掲載から2年後ぐらい。私は大学で学生にEBM(根拠に基づく医療)について教えているが、授業のためにこの論文の基となる研究デザインについて調べたら発表論文と違うことが書いてあった。当時の著書に「日本の臨床試験の歴史に残る事件ではないか」と書いたが、関心を持った人はほとんどいなかった。
--高血圧治療が専門の日本高血圧学会も?
日本の学会の偉い人たちは基本的には基礎医学者。ディオバンは動物実験や試験管内では良いデータがたくさん出ている。基礎医学の人たちは「実験でこれだけ良いんだから、ヒトでも良い結果が出るに違いない」と考えてしまう。
--基礎研究で良い結果が出れば、臨床でも同じような結果が出ると考えるのは普通ではないか
実際に臨床でやってみないと分からないことが多い。ただ、それが分かってきたのは最近のこと。エポックメーキングとなったのは、不整脈治療薬が不整脈を減らしたにもかかわらずかえって突然死を増やすことを示した米国のCAST研究。1989年実施のこの研究以降、不整脈を減らす研究ではなく、突然死を減らすかどうかの臨床研究を重視しようという流れに変わった。でも、日本ではいまだに基礎研究だけで完結したかのように考える臨床医も多い。医師だけでなく、社会全体が臨床研究の重要性をもっと理解する必要がある。