けれども笑いごとではなかった。駅と駅のあいだで、車内アナウンスなどいっさいないまま列車が止まること約20分。再び動き出した車窓から、見てしまったのだ。線路脇ぎりぎりのがれきの上に、薄汚れた何枚もの布をかぶせられ、横たわる人の姿を。
「あぁ、事故だ」と、新聞を手にした中年男性。「あの人は、死んだのかもしれないし、気を失っただけかもしれない。いずれにしても、よくあることです」
ここでは人の命の重さが軽すぎる。ぼろきれで覆われるのは、屋根の上で手を振っていた少年だったかもしれないし、もしかしたらわたし自身だったかもしれない。
布をかけられた人を、スラムの住人たちは静かな目で見つめていた。
■取材協力:Bangladesh Tourism Board
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。