乗り込んだローカル列車には、もの売りが入れ替わり立ち替わり現れた。乗客がすし詰め状態で立錐の余地もない急行列車に比べて、近郊を走る各駅停車は、混んでいるとはいえもの売りが動くスペースがあるからだ。もちろん彼らは無賃乗車。だが、とがめる人は誰もいない。
次々と売れているのは、キュウリの仲間のウリ科の野菜やにんじんといった生野菜。暑い季節には気温が40度を超えることもあるのに、停電がたびたび起こるバングラデシュでは、列車でエアコンを使用しない。中国から払い下げられたという車両には扇風機がついているが、これも使わない。車体にはドアがなく、窓は全開だ。
売り子の少年は、声がかかると皮むき器を使って手早く野菜の皮をむく。ウリ科の野菜らしい青くさいにおいが、車内いっぱいに立ちこめる。使い回しのペットボトルに入った薄茶色の水でさっと洗い、同じく古びたペットボトルに入った塩を振って乗客に手渡す。ひとつ5タカ。約7円。