アベノミクスの第3の矢となる「日本再興戦略改訂版」にもうたわれた中小企業の革新。東北でそれを下支えするプロジェクトが開花しつつある。山形大学国際事業化研究センター(今野千保センター長)の「ものづくりシニアインストラクター養成(スクール)・活用(派遣)事業」だ。一線で活躍した退職企業戦士を指南役に育て、そのノウハウを現場に伝授する。世界で戦うよう東北の中小企業を成長させ、東日本大震災からの復興も手助けする内容が注目されている。(東北特派員関厚夫)
この事業の原動力となったのは山形大教育・学生支援部の柴田孝教授(67)。NEC米沢でノートパソコンの事業化に成功。社内ベンチャーの立ち上げや経営も担当したという異色の教育者である。
コンセプトは国内、さらには世界で戦うために良い設計と良い流れを追求し、中小企業をスリムで基礎体力のある“筋肉質”に生まれ変わらせること。中小企業ではきわめて低いとされる正味作業時間比率をトヨタ並みを目指してカイゼンする。
具体的には、トヨタの取り組みなどを基にした「リーン生産方式」を下敷きとする養成講座(スクール)を通じて、経験豊富な退職企業マンを中小企業を再生するシニアインストラクターに育成し、実際に企業に派遣する道筋をつける。また、東京大学ものづくり経営研究センター(センター長・藤本隆宏東大大学院経済学研究科教授)に協力を要請し、きめ細やかな指導をめざす。
この事業は東日本大震災後に立ち上がり、地元の山形で実績を挙げたため三重県が導入を検討している。
経団連のアンケートによると、中小企業経営の課題として挙げられたのは「指導・育成できる人材が不足している」(67・7%)が最多。このため経済産業省は、山形大のシニアインストラクター養成・派遣事業に継続して財政支援を行ってゆくことを決めた。これは同事業への期待にほかならない。
山形大はこうした支援をテコにして、今秋にも約30人を対象に総計70~120時間の養成講座を開く。受講料は総額数万~10万円という「格安」に収める。
今野センター長は「東日本大震災後、日本の経済界全体が、戦後まもなくを思わせる新陳代謝の時機を迎えていると感じている。そんななか、全国的にも中小企業の比率が高い東北の企業を1社でも元気にし、雇用創出のお手伝いをする。結果としてそれが震災復興の一助になればと思う」と話している。