車窓を眺めながら、のんびりビールを味わおうっと。ところが発車が近づくにつれ、車内は混雑してきた。窓際に配置された、外を向いて3人も座ればいっぱいに思えるベンチシートに、おばさんが反対向き(車内を向く)で、ぐいぐいとお尻をねじこんでくる。次の停車駅ではついに5人目まで。他のベンチシートも同じ状況なので、どうやらこれがスタンダードなようだ。
おばちゃんふたりとお尻をくっつけながらビールを飲むのは落ち着かず、シートは放棄して車内を見学してみる。カラオケボックスにマッサージチェア。ゲームコーナーまであるけれど、誰も利用していない。
「使用する場合は、売店でお金を払って鍵を受け取ります。もし使いたいなら、手伝いましょうか」。大学生の青年によると、この列車は釜山行きで、遠くまで行く人が、たまにマッサージチェアを利用するくらいで、カラオケなどは、いまはほとんど使われていないとか。
数少ないベンチシートからあぶれた人たちは、みんな床にぺたんと座っている。私も諦めて青年と並び、カーペットが敷かれた床に腰を下ろした。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら