「そうですね。じゃあ撮ってもいいけれど、私が背中を向けているときなど、見ていないときに撮ってください」
「よかったわね」。女性は屈託のない笑顔を見せてくれたけれど……。
駅に隣接したショッピングセンターでは、警察犬を連れた警官がパトロールしていた。規則により、彼が写真を撮ってもらうことはできないけれど、犬は撮影可能だから写真を撮って行けと言う。
威厳のかけらも見せずに寝そべっていた黒ラブは、めんどくさげにパタパタと3度ほどしっぽを振ると、また目を閉じてしまった。「暑いからしょうがないですね」と警官は言う。
ぷっ。おもしろくなってつい悪ノリし、「あの窓から列車を撮影できますが、写真を撮ったら、罰せられるのですか」と尋ねてみた。答えは「窓からなら撮影してもいいでしょう」。
ええっ!? こんなにゆるくてだいじょうぶなのか。私の心配をよそに、警官は笑って手を振った。
取材協力:フィリピン政府観光省
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら