涙を飲んでから1カ月。ふたたびメークローン市場へやって来た。これまで5回にわたってお伝えしたように、うだるような暑さのなかバンコク郊外からマハーチャイ線に乗り、渡し船に乗り継ぐ、気の遠くなるような移動を再び繰り返したのだ。ところがなんと言うことだろう。わたしが行く3日前から、メークローン線は線路の補修のため、なんと半年にわたって運休してしまった。
タイ国鉄の職員によると、運休は2015年11月8日までで、11月9日より運行を再開予定。運休期間中はミニバスを走らせている。「ただし11月8日というのは、現在の計画です。タイではよく、工事が遅れますから」と、女性職員は苦笑する。
あぁ、またもや。すっかり落胆し、マンゴーでも買ってバンコクに引き返そうと市場をうろついた。魚屋も雑貨屋も以前と変わらぬ姿で線路上に店を広げている。「傘を折りたたむ面倒がないから、メークローン線はこのまま走らなければいいねぇ」。果物屋のおばちゃんは、のんびりした口調でそう言った。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら