移動中の車内には、まるで運動会の入場行進に使われそうな、陽気でリズミカルな音楽が流れる。運転士がノリノリで身体を揺らしているが、この浮かれた音楽は運転士の趣味ではなく、「リヒテンシュタインポルカ」という伝統音楽だそうだ。
列車ならぬミニバスの強みを発揮して、シティトレインはオープンカフェのある目抜き通りを、店先をかすめるように通過する。鉄道とは異なる風景を見られるし、バスはバスで楽しいものだ。
しかし運転士は、これをバスとはけして認めなかった。いわく「男の子は、鉄道の運転士になるのが将来の希望のひとつ。自分は子どものころの夢を叶えた」とか。
「リヒテンシュタインは小さな国だから、鉄道を敷く必要がないと思われているんですよ。あぁ、スイスはあれだけ鉄道をつくるのが得意なのだから、ちょっとこっちまで線路を延ばしてくれりゃいいのに」と運転士。それって隣国とはいえよその国に期待することなのだろうか…。苦笑しつつ、私は列車とは明らかに違うタイヤの揺れに身を任せた。
■取材協力:スイス政府観光局/スイス インターナショナル エアラインズ/スイストラベルシステム
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら