ちなみに、この列車にはキッチンカーがない。つまり車内で調理をすることができないので、作り置きした料理を車内で食べることになる。料理好きにとってはちょっと残念。そんな考えは出水駅のホームで変わった。
出水駅での停車時間は、ほんの10分ほど。その間に乗客を駅舎やホームで楽しませながら団体客を案内し、スタッフ総出で前半のゴミや空き瓶を運び出し、ディナー用のコース料理を運び込む。料理は、少しでもできたてを味わってほしいと、地元のレストランが列車の発着に合わせて用意しているそうだ。
正直なところ、料理だけでみたらコストパフォーマンスがよいとはいえないし、味や調理法についても思うところは多々ある。品数や品書きについても気になることてんこ盛りなのだけど。揺れる車内で盛りつけを崩さず、少しでもおいしい状態でと走る回るスタッフのホスピタリティに、心がほっこりする。
不知火海に夕陽が沈むころ、地元で活躍するジャズピアニストによるライブが始まった。そうそう、この生演奏を楽しめるのも1号車の特権だ。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら