
高井隆一さんの父親が事故に遭った共和駅。当時は施錠がなく、ここから線路に降りて電車にはねられた=愛知県大府市【拡大】
どうしても外に出たがるときは「お茶を飲もう」「テレビを見よう」と気をそらし、だめなら一緒に外に出る…。そんな繰り返しの7年間。家族は苦労の連続だったが、以前入院したときの混乱がひどく、認知症の症状も急激に進んだため、在宅介護以外の選択肢はなかったという。
事故はそんな中で発生。JR東海に提訴され、1審は高井さんと母親に全額賠償を命じた。「一瞬の隙もなく監視するなら施錠、監禁しかない。日々介護に奮闘している人がたくさんいるのに、こんな判決が確定したらとんでもない」。すぐに控訴を決めた。
2審判決でも母親に賠償命令が出されたが、最高裁判決は、高井さんにも、母親にも監督義務はなかったと認定した。「認知症の人は増えていく。みなさんが地域で安心して過ごせるための礎となる判決を勝ち取ることができた」
何よりも訴えたいのは、「認知症は誰がなってもおかしくない、恥ずかしくない病気」ということだ。裁判の証拠集めで新聞記事を調べ、介護を苦にした無理心中を多数知った。
認知症の人は7年後には700万人、実に高齢者の5人に1人が発症するとされている。高井さんは「認知症の介護は本当に大変。内にこもらず、近所の人に協力してもらったり、家族の集いで愚痴を聞いてもらったりしてほしい。これからは、介護の応援団の一員としてやっていきたい」と力を込めた。