原因は「情報過多」だけではない 現代人が欲望に振り回される根本原因 (3/5ページ)

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 <世の中が高度に複雑化・専門化したために、高等教育を受けても追いつかない。分かりにくい政治的・経済的・社会的事象も増える一方。要するにいくら学んでも追いつかず、人間がオーヴァーヒートしてしまう。そんな時代が当世なのです。

 そうなると人間は自ら進んで原始宗教の時代に戻るのです。広く分かろうとしても分からないので、多くのものに目をつむり、「見たいものしか見ない」「聞きたいものしか聞かない」ようになるのです>(「AI栄えて人間滅ぶ」『小説幻冬』2018年6月号)

 IT革命が夢見たユートピア

 以前、この連載でも紹介したように、ヒトの心には、直感的な「速いこころ」と理性的な「遅いこころ」という2種類の情報処理システムが重なって搭載されている。「分かりにくい政治的・経済的・社会的事象」を理解するためには、直感は向いていない。安全保障はどうあるべきか、社会保障はどうあるべきかといった問題を、直感で判断するわけにはいかないだろう。

 それゆえ、社会が複雑になればなるほど、その問題解決には理性的な能力が求められる。でも理性は「遅いこころ」なので、立ち上がるのも遅ければ、処理能力もゆっくりだ。それでもヒトが高度な文明を築くことができたのは、前回述べたように、環境を知性の一部としてきたからにほかならない。

 今年、邦訳が出版された『知ってるつもり--無知の科学』(スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック著/土方奈美訳、早川書房)でも語られているように、「頭蓋骨によって脳の境界は定められるかもしれないが、知識の境界はない。知性は脳にとどまらず、身体、環境、そして他の人々をも含む」のである。

視野狭窄の原因は「情報過多」だけなのか?