Bizプレミアム

“博物館級”のレトロさ 「昭和の急行形」東武350系、春以降も現役続行へ (1/3ページ)

 鉄道の世界でも春は“別れ”の季節だ。多くの鉄道会社では毎年3月にダイヤ改正が行われ、老朽化した車両が一線を退く。東京と伊豆を結ぶ特急「踊り子」では、1981年にデビューした185系が定期運行を終える。一方、関東最大の私鉄である東武鉄道にも、ファンからその去就が注目されていた昭和の名車がある。急行用の車両として製造された350系(350型)だ。ネットでも話題のレトロな雰囲気に浸れる車両だが、現在は土休日のみ運行の「特急」の任を担う。春のダイヤ改正が「危ない」と去就を心配する向きもあったが、東武鉄道は「3月13日のダイヤ改正でなくなるというわけではない」としており、春以降も現役を続行する。とはいえ、忍び寄る老朽化の波にいつまで抗(あらが)えるのか。

急行から特急に“出世”した古豪

 東武鉄道によると、350系のデビューは1991年。レトロな雰囲気が人気を集めているのに、実は平成生まれだったのだ。「古さという意味では100系『スペーシア』と似たり寄ったりなのです」と担当者。東京の浅草と栃木県の日光、鬼怒川温泉を結ぶフラッグシップの「スペーシア」は前年の1990年に登場しており、350系よりもスペーシアの方が少し古い。350系が1991年製とは、にわかには信じがたい。

 それもそのはず、である。正確には、350系に改造されたのが1991年というだけで、もともとは「1800系の流れを汲(く)む車両」(東武)。1800系は1969年にデビューした急行用の車両で、ルーツをたどれば半世紀も前の車両ということになる。「踊り子」からの撤退がニュースになったJRの185系は登場から40年ほどだが、東武の350系はその185系をも上回る“古豪”だったのだ。

 350系の改造元となった1800系は東武伊勢崎線系統の急行「りょうもう」(当時)で使用され、車内はビジネス用途を意識した設計に。日本で初めて車内にドリンクの自販機も設置されたエポックメーキングな車両だった。急行形車両といえば当時、国鉄では向かい合わせのボックスシートが当たり前。1800系の座席はリクライニングこそしないものの、2人がけの回転クロスシート。急行用としては豪華な仕様だったようだ。

 1800系はビジネス需要が急増した高度経済成長期に登場。東京五輪から5年後、国民総生産(GNP)が西ドイツ(当時)を抜いて世界2位となった翌年のことである。北関東と東京を往来するビジネスマンを数多く運んできたが、急行「りょうもう」(現・特急)に後継車両が投入されることになり、観光需要の多い日光線系統の急行に“移籍”することになった。

 350系は改造時にカラーリングを赤から現在の白を基調としたものに一新。赤とオレンジの帯をまとう日光線優等列車のデザインに変わった。日光線の勾配区間に対応するため、発電ブレーキや抑速ブレーキなども装備。一方で車内にはあまり手が加えられず、したがって、座席も内装もほぼ半世紀前の急行時代のまま。2006年3月のダイヤ改正では急行から「特急」に“昇格”したが、このタイミングでもリクライニングシートへの交換は行われなかった。

 デッキと車内を隔てる扉は白眉(はくび)だ。手動の引き戸にはオレンジ色に着色されたガラスがはめ込まれており、これが何ともレトロで、味わい深い。内装の“昭和感”は他の特急列車では類を見ないほどで、SNSでも「レトロ感満載」「博物館級のレトロさ」「レトロな特急」といった反応がみられる。

 ちなみに、国鉄・JRの185系は転換クロスシートでデビューしたが、のちにリクライニングシートに換装されている。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus