もう一度あの笑顔に
勿忘草赤道直下に位置する、33の小さな島からなる国「キリバス」。南太平洋に浮かぶこの島国が、2000キロ離れたまったくの異国、フィジーに広大な土地を購入したのは、今から1年前のことだ。白いサンゴでできたこの美しい国は、温暖化の海面上昇によって水没の危機にさらされており、その対策の一環として他国の土地を購入した。
実は約5年前、出張でキリバスに1カ月ほど訪れたことがある。首都があるタラワ島は幅100メートル、全長約50キロの細長い島で、ここに約5万人がひしめくように暮らす。小さな島国は3日も暮らせば周辺に顔見知りができ、1週間を過ぎたころには道を歩けば「ユミ! ユミ!」と声を掛けられるように。2週間目には、仲良くなった一家のお母さんの「あなたは女の子なんだし、危ないからうちに住まないとダメよ」の一言で、20人が暮らす家に住まわせてもらうことになったほど。家は海沿いに建てられており、満潮になればすぐそばまで海面が迫ってくる。家族はそれを指して「日増しに家に迫ってきているのよ…」と不安そうに話していたのを覚えている。
キリバスがフィジーに土地を買った理由について、アノテ・トン大統領は「新たに購入した土地は国民が移住するためではなく、今後農作業ができなくなったときに食料を確保するため」と説明している。とはいえ、キリバスは50年後ぐらいまでに部分的に水没する可能性もあるとされ、約10万人の国民の移住先としても視野に入れての購入だろう。
いつ自分たちの国土がなくなってしまうか分からないという過酷な状況の中でも、キリバスの人たちは明るく前向きに暮らしていたのが印象的だ。私が旅立つ日は、空港まで一家で歩いて見送りに来てくれ、別れを悲しんで涙を流してくれた。そしてお母さんは、「島が沈む前に、絶対にもう一度遊びに来るのよ」と言ってくれた。
日本からの距離はオーストラリアとほぼ変わらないが、飛行機を乗り継いで片道3日、運賃も30万円近くかかる“近くて遠い国”キリバス。簡単ではないが、絶対にもう一度、あの笑顔に会いに行かなくてはいけないと思っている。(今泉有美子/SANKEI EXPRESS )
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