愛と暴力 表裏一体のピュアな物語 古川雄輝、鈴木杏 舞台「イニシュマン島のビリー」
ブラックコメディーで、日本でも人気の高い英劇作家、マーティン・マクドナーの「イニシュマン島のビリー」が上演される。アイルランドの孤島を舞台に、体が不自由な少年、ビリーと少女、ヘレンの成長物語を、古川雄輝(ゆうき、28)と鈴木杏(あん、28)が演じる。2人は、一筋縄でいかない愛憎関係を体当たりで演じ、気鋭の演出家、森新太郎(39)がアイルランドへの留学経験を交えて、乾いた世界観を創り出す。
「イニシュマン-」の舞台は1930年代。両親を亡くし、両足と右手が不自由な17歳のビリー(古川)は、叔母2人(峯村リエ、平田敦子)が営む商店で暮らし、周囲にいじめられている。幼なじみのヘレン(鈴木)は攻撃的な美人、近くの島にハリウッドの撮影隊が来ると知り、弟バートリー(柄本時生)と出演を画策、ビリーも追いかけようとする。英演劇街ウエストエンドで、人気俳優、ダニエル・ラドクリフ主演で上演されたほか、米ブロードウェーでも上演された。
アイルランドの30年代は、英国からの独立運動がくすぶる中、第二次大戦が近づくきな臭い時代。そうした世情に取り残された孤島のビリーとヘレンは外の世界に強く憧れる。
森は一昨年アイルランドに留学、今回の舞台となるアラン諸島も訪ねた。「狭い島に怒濤(どとう)とカモメの声が響く。はち切れんばかりの若いエネルギーが閉じ込められたら、たまったもんじゃない」と実感をこめる。過去にもマクドナー作品の演出を手掛けており、その魅力を「暴力と表裏一体でピュアな愛の物語を描ききっている点」という。今回の作品は2人の少年少女の「成長譚」とみる。
古川はニューヨーク郊外の高校に留学、在学中はほとんど寮で過ごした。「閉鎖された島で暮らしハリウッドを目指したビリーの気持ちは分かる」と、半ば隔離された寮から俳優を志した自分を重ね合わせる。
森は体の不自由なビリーを、「真夜中のカーボーイ」でダスティン・ホフマンが演じた役に重ねる。古川は「映画では足が不自由な分、手を動かしている。でもビリーはもっと不自由で大変」と全身筋肉痛に悩みながら感覚をつかもうとし、「ラドクリフさん以上のものを」と意気込む。
鈴木は、マクドナー作品への出演を熱望していた。「暴力描写も生々しくて、出てくるのは普段なら蓋をしたいどうしようもない部分のある人ばかり。でも憎めない愛らしさが浮き上がってくる」
演じるヘレンは意地悪で暴力もふるう。森は人気漫画「ドラえもん」に登場するガキ大将「ジャイアン」をイメージ。「ビリーに差別意識はなく、『もうちょっとしっかりしてよ』という叱咤激励の気持ちが強いのでは」と鈴木。「嫌み一つでもいろんな言い方がある。どれを選ぶかを考えるのは初めての経験」と、マクドナーの世界観と少女の心のひだを重ね合わせる。
役柄はともに17歳、実年齢も同じ2人を森は「役者として繊細さがあり、誰にも出さない何かが目の奧にある」と評する。古川は自分より俳優歴の長い鈴木から多くを学んでいるといい、「実際のビリーとヘレンみたいな感じかも」と笑う。(文:藤沢志穂子/撮影:伴龍二/SANKEI EXPRESS)
3月25日~4月10日、東京・世田谷パブリックシアター。問い合わせはホリプロチケットセンター(電)03・3490・4949。
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