高校時代に読み耽(ふけ)った坂口安吾でさえ、あれだけ読んだのに、いやもしかするとあまりに読みすぎてしまったゆえに、どの作品も混じり合い絡まり合って一つの塊のようになってしまい、それをちょっとずつ剥がしてゆこうと数年前に全集を手に入れ、まだ手をつけずにいる。レクトゥールの反抗としては、しかしそうした靄のかかったような読書の中でさえ、煌(きら)めいたその瞬間は確かにあって、それを逃しさえしなければ、案外、生活の素材や本質に強い影響を残す事もあるのだ。というように抗(あらが)いつつ、井の頭線に揺られ揺られて、リズールへの嫉妬も、レクトゥールの抵抗も、夢のまにまに遠ざかるのかどうなのか。(演出家 長塚圭史、写真も/SANKEI EXPRESS)
■ながつか・けいし 1975年5月9日、東京生まれ。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成。ロンドン留学を経て、新プロジェクト「葛河思潮社」を立ち上げた。今春は「あかいくらやみ~天狗党幻譚~」の作・演出を手がけ、出演も。12月8~29日まで東京・Bunkamuraシアターコクーンでシェークスピアの四大悲劇の一つ「マクベス」を演出する。