常に変化する自然の中で、分刻みの予定には意味がない。川の遡行(そこう)や狩猟、小屋作り…。厳しい条件に合わせて最終的に物事をやり遂げる猟師の流儀を見ていると、むしろ時間にとらわれ過ぎないことが大切に思える。今、ここで、できることに集中する。それがタイガで生きる鍵だ。水に流されていく舟を立て直すには、その場で自分で竿(さお)を突き立てなければならない。
夕暮れの陽が川霧を赤く染めたのを合図に、何もかもが色を失い始めた。漆黒の闇が舞い降りてくる。車のライトを改造した手製のサーチライトで先方を照らし、浅瀬や倒木を避けて慎重に舟を運ぶ。碑石やコンクリと一緒に冷たい川底に沈むのはごめんだ。
狭い光輪の中、川岸の濡れた木々が異様な迫力で浮かびあがる。船外機の音が虫の声のように止むことなく響き続けた。これは夢なのか-。時間の感覚が無くなる頃、川岸にぼんやりと小さな灯(あか)りが見えた。見覚えのあるハバゴの狩小屋だった。(写真・文:写真家 伊藤健次/SANKEI EXPRESS)