小泉 独特の文学って感じがします。好きか嫌いかについて触れていい文学。劇中、部屋にテレビを置かない森本に、ノブ(赤堀雅秋)が「気になってしょうがねえ。テレビを見ねえってことは、もうなんか考えているってこったろ」みたいに言うシーンひとつとっても、かっこいいよね。岩松さんならではのこだわりや、日常的にふと気になったことが織り交ぜられていて、面白い。ほかの人の稽古を見ながら、笑うのをこらえたりしています。
阿部 台本を読むのが面白くて。けれど演じるのは難しいんです。あんまり意味がないようなセリフでも、どこか意味が含まれているんじゃないか、って考え過ぎてしまうことも。台本の“ハラ”を探りながらやっています。
小泉 岩松さんは感情については一切、おっしゃらない。「手をここに、こう挙げて」「3歩、歩いて」みたいなことだけ(笑)。でも、不思議とそうすると感情がついてくる。
阿部 全然、そっちのほうが面白くなるんです。言われた通りにすると面白くなる。あれ、すごい不思議。
小泉 「やめて」っていうセリフを言うとき、やめて、っていう動機を探しちゃうけれど、ただ言っちゃえばいいときのほうが多いですね。岩松さんの「手を上にこう挙げて」は、役者がそのとき、頭の中で組み立てようとしたものを忘れさせるためなのかな、って気がします。