今を生きて想うこと
極めつきでユニークなのは、アメリカの小説家ジョナサン・サフラン・フォアのつくった『Tree of codes』(6)という本だ。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(7)(近藤隆文訳)が世界的ベストセラーになった彼だが、実はとてもユニークな本づくりをする者としても知られている。この一冊の場合は、ページをめくると何やらテキスト部分が虫に食われたように穴があいているではないか。
この穴空き本は、ポーランドの作家ブルーノ・シュルツの『The Street of Crocodiles and Other Stories』という作品の言葉を抜き出して、再構成した切り抜き小説。母方のルーツであるポーランドの書き手に対し尊敬の念を込めたオマージュとして、こんな方法もあるのかと膝を打つ、見事な本歌取りである。
三木屋に逗留した文豪はたくさんいたが、フォアのように軽やかに先人を超えてゆきたいものだ。ただただ過去の歴史を観光化するのではなく、新しいものを生み出すためのライブラリー。
ゆったりとソファに腰掛けながら、300年も続く三木屋旅館の庭を眺める。ずっと前にそこに居た人が、何を見て、何を感じたのかに思いを馳せる。志賀は生死の境界と対峙したが、大切なのは今を生きる僕らがその場で何を想うか。本のある空間は、きっとあなたをどこかに誘うはずだ。