≪匂い、音、光… 郷愁誘う黄昏の川≫
最初の旅で一緒にタイガへ入ったワーニャはまだ線が細くあどけない顔をしていた。今や筋骨隆々として頼もしい若手猟師の筆頭株だ。先輩猟師が集まるといつもおちょくられ、何かと仕事を振られる。だが脇で見ていると彼が次の世代の猟師として、どれだけ頼りにされているかわかる。この秋の旅でも、彼が川で撃ったツキノワグマを先輩に指示されつつ、てきぱき解体していた。世代の違う猟師が同じ川で働く風景はいいものだ。そんな彼が上流への旅に同行してくれると、僕はいつも安心してタイガに入っていける。
秋の夕暮れ、ワーニャが船縁に腰掛け、タイガに沈む夕日を見ていた。
刻々と色を変えてゆく空が川面(かわも)に映り、水に揺れる。そろそろ竿(さお)をたたんで狩小屋へ帰る時間だ。その時、子供の頃に過ごした川辺の匂いと黄昏を僕はまざまざと思い出した。匂い、音、光。そして自然の中で過ごした時間。誰もがそんな形にならない記憶を胸の奥に抱き、それが今を生きる支えになっているのではないだろうか。