私はそれでもやっぱり野良猫だから気まぐれなものだから、必ず来るとは思わないほうがいいよ、と言った。或る朝、とうとう野良猫は来ず、朝置いた餌が夜になってもそのままになっていた。あんまり思い入れするとつまらない喪失感を味わうことになるなあと心配していたところだったので、まあこれで一段落着くかと思っていた。すると深夜に音がする。カリカリカリと。やっぱり夜になってお腹を減らしてやってきたのだとカーテンを開けると、なんとハクビシンの親子がキャットフードを貪っている。それもなかなか豪胆で、窓越しに写真撮影などしても動じず全部平らげて去っていった。案外この東京にもまだまだ知らないようなものが棲息しているのかもしれない。ハクビシン親子はそれなりにチャーミングな姿形ではあるのだけれど、これが屋根裏などに入り込むと大変なことになるという話も聞いていたので、今後、深夜まで餌を置くようなことはやめて、朝、例の野良猫が遊びにというか、腹を空かせて来た時にだけ餌は出す事に決めた。
ハクビシンの夜以降、野良猫はほぼ毎日のようにやってきた。最初は少し離れた木の陰で待っていたのだが、最近では窓ガラスに鼻を押し付けんばかりに覗き込んでいる朝もある。それでいて餌を出すと、やっぱりまた木の陰まで逃げたり、時には威嚇のシャー音さえ発する。そういう心構えは歓迎である。生き延びる術となる。私たちはオスだかメスだかわからないこの野良猫訪問者をいつからかロスと呼ぶようになっている。ロサンゼルスのことではない。