複雑さこそが豊かさ
〈道の端にヒールの修理を待つあいだ 宙ぶらりんのつまさきを持つ〉。1983年、第一歌集『衣裳哲学』で現代歌人協会賞を受賞して以来、現代短歌の第一線を走り続けてきた。「もともと私は自由詩を書いていました。ですので、短歌というよりも、『不自由詩』をやっている感覚ですね。五七五七七という決まりの中で、同じ意味の言葉でも他のものはないかだとか、いろいろ工夫をしながら歌を作っていく。不自由だからこそ、見えてくるものがあるんです」
“不自由”の中で磨かれてきた感性がとらえた言葉たちに、持ち前の好奇心で彩りを与えていく。「御御御付け」と書いて、おみおつけ(みそ汁)。みそ汁に最上級の敬語を付けた理由は、みその豊かな効用ゆえ?…などなど。「言葉の背景を考えていくのが楽しいんです。言葉って、歴史であり文化そのもの。日本人が何を慈しんできたかが込められている。日本語って、同じ漢字でも読みが違ったり、すごく複雑。でも、その複雑さこそが豊かさなのだと思います」