高級低層マンションだけあって、中は新築のようにぴかぴかだ。キリンだけじゃなく、サバンナに生息する動物のぬいぐるみが所狭しと置かれ、緑の鬱蒼(うっそう)と生い茂る部屋に違いないと思っていただけに、ワックスで磨き上げられた床の照り返しはなんだか少し物足りなかった。
拍子抜けした。が、これでわが家も人の目を気にせずに済むのだと自分に言い聞かせた私は、それから2カ月ほど、「もう誰も入居しなければいいな」と得も言われぬ解放感を味わいながら過ごした。見つかることもないので、リビングでくるくると回って踊ることもできた。
そして、管理人に連れられて内見に来る人々の気配を感じるたび、私はリビングのレースのカーテンを揺らし、「ここに人がいますよ」というささやかなアピールも怠らなかった。そのおかげもあって、4カ月が過ぎても御殿は空き室のままだった。半年が過ぎてもだ。管理人がどれだけ掃除をし、窓を開けて換気をしても、新たな入居者の気配はなかった。