部屋にはなぜか時々、夜に煌々(こうこう)と電気が灯(とも)された。人のいない部屋を一晩中、明るくしておく必要がどこにあるのか分からなかったが、がらんとした部屋の電気は妙に私を惹き付けた。黄色みがかった照明が目の端に入ると、誰かいるかもしれないと息をこらし、いないと分かると、ほっとした。やがて、自分の中に向かい側の部屋への愛情が芽生えていることに、私は気づいた。あそこに誰も住もうとしないのは、部屋が私のために空き室でいてくれているからなのだ、と思い至ったのだ。
しかし、それから数カ月後、今住んでいる家を私のほうが引っ越さなくてはいけなくなってしまった。
念願をかなえ、そして
私は寂しさでいっぱいだった。あれから私と部屋のあいだには、愛情らしきものがはぐくまれ続けていたのに。
引っ越しの3日前、私は近所の不動産屋に出向き、ずっとずっと自分の中で抑え続けていたことを実行した。