「ここまで津波にやられたんだな」。一番列車に乗った釜石市の仮設住宅で暮らす川畑宰さん(73)は、川沿いの自宅跡地にカメラを向けた。震災前は、大船渡市の病院に入院していた妻を見舞うためによく乗った路線。「昨日は緊張して眠れなかった。やっぱり懐かしいです」
神戸市西区から訪れた会社員、沖英幸さん(50)は、阪神大震災の記憶と重ねながら「当時は津波の被害を見て言葉にならなかった。感慨深い」と話した。
父親と乗った小学1年の菊地真理恵さん(6)は「うわー」と声を上げ、沿道で大漁旗を力いっぱい振る男性を見つめた。唐丹駅(釜石市)で上下の一番列車がすれ違うと乗客は手を振り合った。復旧工事が続く海辺に朝日が反射し、水面がきらきらと輝いていた。
大船渡市の盛駅では午前11時、新潟県の工場で新造されたレトロ車両の記念列車が出発。望月正彦社長は「全国の協力に心から感謝したい。地域の活性化に貢献していく」と誓った。結婚50周年の記念にと長女が応募し、夫との3人で乗った市内に住む鈴木絹子さん(75)は「最高の結婚祝いになった」。大役を担った運転士の和田千秋さん(49)は津波で自宅や親族を失った。「やっとこの日にたどり着けた。支援への恩返しの意味も込めて運転したい」と話し、乗り込んだ。(SANKEI EXPRESS)