この写真集を眺めると、やはり子供たちの表情は読者をすがすがしい気持ちにさせる。真っ黒に日焼けした女の子たちは、大きな眼をくりくりさせながら、子供と大人の境界を無垢なまま駆け抜けている。そして、おばあちゃんたち。きれいな花柄のワンピースを着た彼女らがいうには、「ユンタクはダンパチャーで」(おしゃべりは、散髪屋で)するのだそうだ。戦争の話をする爺ちゃんがいる、集団自決のことを思い出す婆ちゃんがいる。けれど、この写真集は決して後ろを振り返らず、前へ前へ生きていく人の陽気なエネルギーに満ちている。
実際のところ、島は天国ではないから、多くの問題も抱えている。中学を卒業した子供たちは、高校へ通うため島の外に出なければならない。過疎化も進む。この渡名喜島の数キロ先にある入砂島は、いま米軍の空爆演習地になっているらしい。けれど、この渡名喜島には毎日を楽しく懸命に生きている人がいることを、この写真集は証明する。美容師の福田さんは、「髪を切る」というささやかな行為を積み重ねながら、島民に何かを注入している。
島価格の低料金で、旅費も自腹。果たしていつまで美容室が続くのかと、島民も心配していたのは過去の話。いまでは泡盛片手に島の仲間とユンタクし、模合い(本州でいう無尽講)にも参加するようになった美容師の福田さん。島に戻ったとき「おかえり」と言われるようになった彼は、自力でもうひとつの故郷をつくりあげたわけだ。