糖尿病の友人には食事の前に行う「儀式」がある。インスリンの注射をおなかに打つことである。食事で急激に血糖値が上がるのを抑えるためには、この注射が欠かせない。
血糖値を上げるホルモンにはグルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンなど複数あるが、下げるホルモンは唯一インスリンしかない。インスリンは命の綱というわけである。
不思議なのはどうして血糖値を下げるホルモンはインスリンしかないのかという点である。諸説あるのかもしれないが、大学の医学部などで教壇に立つ知人の医師によれば、ヒトの体がそもそも生理的に飽食に対応できるようにはなっていないからだという。
ヒトの歴史を振り返れば、圧倒的に食糧不足の時代が長く、外敵から身を守って俊敏に動くためにも血糖を上げる必要性が高かった。インスリンが大量に必要とされる飽食の時代が到来するなんて、ヒトの体には「想定外」だったというわけである。