日が暮れてから神宮の杜(もり、明治神宮外苑)を歩いた。鬱蒼(うっそう)としげる木々の間から、国立競技場の威容が現れた。鉛色の空にそびえ立つ鋼鉄製の照明塔と、コンクリートの塊。隣接する神宮球場のナイター設備が照らし出していた。
国立競技場は10月10日、1964(昭和39)年の東京五輪の開会式から50年の節目を迎える。すでにその役目を終えて静かに建て替えのときを待つ。現在は閉鎖されて人影もないが、五輪開催を伝える当時のエンブレムも、聖火台も、コンクリートも、その存在感は衰えていなかった。
2020年東京オリンピック・パラリンピックのメーン会場となる「新国立競技場」は、前年の19年9月に日本で開催されるラグビー・ワールドカップに間に合うように建設される。世界中の建築家に呼びかけて国際デザイン・コンクールを開催、最優秀賞を獲得したロンドンを拠点に活躍するイラク出身の女性建築家、ザハ・ハディド氏の作品が採用された。ハディド氏の設計はまるでSF映画に登場する宇宙船のよう。しかし、当初デザインは巨大で景観破壊や建設費がかさむことから修正が加えられた。