【アートクルーズ】
作業台に立つと、傍らの白い洋紙をおもむろに引きちぎり始めた。ハサミは一切使わずに思い思いの形に切っていく。その指先の動きを見ているととても92歳とは思えない。引きちぎった紙を台紙に貼りつけてアッという間に犬の横顔を完成させ、ニッコリとした。
横浜市旭区に住む内田正泰(まさやす)さんは、半世紀以上のキャリアを誇る現役のはり絵画家だ。これまでに制作した作品は、販売して手元にないものも含めると800点を超える。入道雲を背景に虫取り網を持つ2人の子供や、鮮やかに紅葉した森にたなびく炭焼き小屋の煙、朝焼けに染まった港を出航する船など。いずれも日本人の心に触れ、どこか郷愁を抱く作品ばかり。細部にわたって表現された作品は、紙を貼って作ったとは思えない。
北海道から沖縄まで訪れて自らの目で見た風景や、幼い頃の思い出、心象風景などをモチーフに作品を制作する。
風景はその場でスケッチはせず、「ハートで見てきて、帰ってからその思いをはき出す」のが内田流。「これは日本人だなあと思われるものを作りたい」と話す。