6月1日、全国ツアーのファイナルコンサートで渋谷公会堂のステージに立つ黒木渚=2014年、東京都渋谷区(鋤田正義さん撮影)【拡大】
全員が子供に戻る
とはいえ、現実的に考えてその道のりは険しい。頑張ったからといって必ず行けるという場所でもないことは分かっている。けれど、決めてしまわないことには何も始まらないじゃないか、と、逆算で考えることにした。その結果、前回の全国ワンマンツアーでは、渋谷公会堂クラスの場所でファイナルを実現できていなくてはならない計算になった。半年でお客さんを3倍に増やさなければならない。もう覚悟を決めるしかない。事務所も一緒に腹をくくって、渋公公演を決定した。当日までは正直あまり詳細な記憶がない。ひたすら全力で走り続けていた。この公演が成功しなければ先が見えない。そして、6月1日、黒木渚は無事にライブを終えることができた。全国から東京に集まってきたお客さんと、スタッフたちみんなで最高の一晩を過ごすことができた。ワンマンライブが行われている2時間だけは、全員が子供に戻ることができるのだ。主婦も係長もトラックのドライバーも看護師もみんな、純粋な子供に返って自由に過ごす。その空間で交わされた約束事は、私たちが子供の時に交わした秘密の約束と同じ純粋さでお互いの中に残る。一緒に行こうと言った場所に「よもや行けまい」と子供は疑ったりしない。愉快で勇ましい私たちの行進が、必ず行きたい場所へ続いていると信じている。(文:九州出身の音楽アーティスト 黒木渚/撮影:フォトグラファー 鋤田正義/SANKEI EXPRESS)