その後も岡崎大使からは、さまざまな研究会に誘われたが、鈴木宗男事件のときに筆者が逮捕される流れを作った外務官僚と同席する可能性が高く、そうなれば当然、険悪な雰囲気になり、岡崎氏に迷惑をかけることになると思い、遠慮した。岡崎氏から、「外務省関係者がいない会合だから、ぜひ話をしてもらえないか」と国語問題協議会の講演を依頼されたので、それは喜んでお引き受けした。講演の後、1時間くらい岡崎氏と率直な意見交換をした。岡崎氏は、「外務省の現役でも君のことを評価している人は何人もいる。あんなつまらない事件にとらわれず、君の力を国益のために使った方がいいよ。外務省との間に立つ必要があれば、いつでも声をかけてくれ」と言われた。筆者は、「いや、私が外務省の現役と直接接触しない方が、結果として、日本外交のプラスになると思います」と答えた。
筆者が作家として独り立ちするまでの過程で、目に見えないところで筆者を助けてくれた人が何人かいる。その一人が岡崎久彦氏だ。岡崎大使、どうもありがとうございます。ご恩返しができずに申し訳なく思っています。どうぞゆっくりとお休みください。合掌。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)