秋の日差しは汗ばむほど強かった。文化の日の11月3日、建長寺、円覚寺の「宝物風入れ」が行われていたこともあって、北鎌倉はたくさんの人でにぎわっていた。
秘蔵の文化財を書院に並べ、風を通す恒例行事。お寺を訪れる人には、ふだん見ることのできない書画、仏具などを拝観する貴重な機会でもある。
その円覚寺とは道路をひとつ隔てて向かい合う東慶寺の境内を訪れた。江戸時代には、不幸な女性たちを救う「駆け込み寺」「縁切り寺」として知られた名(めい)刹(さつ)。いまは鎌倉有数の花の寺でもある。
境内には大正末期に「自殺防止」を呼びかけた石碑がある。産経新聞神奈川版に掲載された川上朝永記者の記事でそのことを知り、お寺の方に場所を尋ねた。「二つ並んだ長い石段の脇ですよ」と、印のついた地図で丁寧に教えてくれる。
谷戸の奥に細長く延びる境内は、紅葉間近の木々に囲まれ、西田幾多郎や小林秀雄ら著名人の墓も多い。石碑はその墓地の入り口に近いところにあった=写真。