それほどまでに思い入れのある記録だった。モンゴルから来た白鵬をいつもかわいがってくれた元横綱大鵬の納谷幸喜氏は「角界の父」。生前に教わったのが最高位としての覚悟だ。
7年前の横綱昇進時。「横綱になったときには引退することを考えろ」と言われ「怖かった」。浮かれそうになっていた心が一気に引き締まった。
年齢を重ねれば、力の衰えは避けられない。追ってくる後輩もいる。綱を張る者は勝てなくなれば、自ら土俵を去るしかない。贈られた言葉は第一人者を走るいまも胸に刻まれている。
「恩返しできた」
昨年1月の初場所中。納谷氏が亡くなる2日前だった。見舞いに訪れ、「優勝32回に1つでも2つでも近づけるように精進します」と話しかけると、「しっかりやれよ」と言われた。
ずっと目指してきた高みに到達した白鵬。「角界の父との約束だった。恩返しができた」。花道から引き揚げるときには涙をこらえきれなかった。(SANKEI EXPRESS)