半面、沢木耕太郎氏のインタビューには、ハワイが好きで、その理由を「人が温かいですね」と答えている(「貧乏だけど贅沢」文芸春秋社)。
自身にもある、あり余る温かさが、多くの映画人や俳優仲間に愛された理由でもあるのだろう。訃報に触れて、各界の人々が自分だけの逸話を涙とともに披露した。そのほとんどが、高倉さんの気遣い、心配りについての話だった。
妻に先立たれた刑務官を演じて遺作となった「あなたへ」のロケ中、刑務所を慰問。受刑者を前に「皆さん、一日も早く出所してください。あなたにとって大切な人のところへ帰ってあげてください」と語りかけて言葉に詰まるシーンが、追悼番組で何度も流れた。情の人でもあった。
映画を見た人が肩で風切って「小屋」を後にした昔も、晩年の作品でも、誰もが彼のようになりたいと思わせる俳優だった。
≪風に揺れるハンカチ 日本中が悲しみに≫
雪舞う夜空に揺れる無数の黄色いハンカチが哀しい。ハンカチは帰りを待つ目印なのだが、健(けん)さんは帰ってこない。