バンドを結成してから日の目を見ない時期が続き、尾崎一人だけで活動していた日々もある。しかし曲作りは続け、良質の歌が次々と生まれた。そして今のメンバーが加入して演奏が整うと、ハイトーンを生かした、時には言葉を投げつけるような個性的な歌唱法からも注目されるようになった。
「半径3メートルの社会についてでないと歌えないから、いざみんなに聴いてもらえるようになると照れくさいですけど、うれしいですね」
映画『百円の恋』の主題歌『百八円の恋』は脚本を読んで書き下ろした曲だが、「あまりにストーリーに合っている」と武正晴監督が感激し、曲が流れるシーンを撮り直したそう。このほかにも女性が主人公の歌は少なくなく、女性ファンが驚くほど心の機微を絶妙に捉えている。しかし本人は、「女の人の心をわかりたくて書いているだけなんですけどね」と答える。
「悔しさ、怒り、悲しさといった良くない感情を題材にしているので、そういうものを歌を通してきれいにしていくというか、バンドを通して演奏することによって報われるというか。そういう歌なのにお客さんが喜んでくれるというのは、ものすごくいいことだなと思います」