数多い泰西名曲の中でもひときわの輝きを放つビバルディの協奏曲集「四季」は、春夏秋冬のそれぞれに田園の情景を描いた作者不詳の詩が添えられている。独奏するバイオリンとオーケストラ奏者の一人一人とが対話のような音楽を交わし、豊かな実りをもたらす厳かな自然の中に生きる人々の姿と、その胸に去来する思いを絵画的な印象とともに映し出して鮮やかだ。
東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールでは、才能ある若い演奏家を見いだし、その成長を見守る音楽プロジェクト「シャネル・ピグマリオン・デイズ」を2005年から開催し、これまで53人もの俊英が確たる一歩をしるしてきた。10周年を迎えた今年は、11月28日から12月3日まで5回に及ぶ記念コンサートが行われ、情熱的なオペラ・アリアが響くステージに始まり、作曲家が深い内奥をしたためた室内楽の名曲が2夜にわたって次々と披露された。
1年間の挑戦を終え、著しい成長を遂げた今年の年間アーティストによる感激の舞台に続き、最終日の3日には、これまでのアーティストが集まって特別編成の合奏団が結成され、その冒頭を「四季」が彩った。演奏に先立って楽譜に記されている詩の朗読が行われたが、しめくくりの「冬」はシャネルのリシャール コラス社長が受け持った。あたたかなまなざしを含んだやわらかな声が会場を満たし、感動を深くする。