だが、そこには多くの壁が立ちはだかった。版木に朴(ほおのき)を使ったものの、柔らかすぎて安定しない。彫刻は細やかな文様を刻むのに、仏師に苦労をかけた。染める工程も一筋縄ではいかない。染料が入るよう、版木には片面1600個、両面3200個の穴が空いている。穴にはそれぞれ栓がついており、文様と色彩を見定め、開け閉めしながら染めていく。油断するとすぐに染料が染み出す。気の遠くなる作業だ。
染料は煮出した瞬間が最も美しいことから、その都度煮出す。染色は他の工芸品と異なり、最後まで完成図が予想しにくい。すべての染色が終わり、板を開いた後、何度も洗い、水が滴る布をパッと開いた完成の瞬間、出産に立ち会ったかのような衝撃が全身を走った。
≪遡る過去 現在に投影する信念≫
吉岡氏の飽くなき探求心は、工房の隅々、働くスタッフの息づかいにまで行き届いている。一例を挙げれば、ジャカード機以前の空引機(そらびきばた)と呼ばれる巨大な織機だ。