リサイタルを行うバイオリニストの吉田恭子さん。バイオリンは名器グァルネリ・デル・ジェス=2014年4月25日(岩切等さん撮影、提供写真)【拡大】
「『スプリング・ソナタ』を書いたころには、死にたいと思っていたはずなのに、明るく生命力ある曲です。不安な感じはまったくしません。ベートーベンの前に演奏するモーツァルトのソナタ第27番は、マンハイム時代に作曲されました。具合が悪かった母親をその半年後に亡くします。情緒不安定な状態で書かれており、普通のソナタ形式ではなく、心のもろさがハ長調の中に表れています」
深い色彩感、味わって
実は、今回の選曲の隠されたテーマが「死」。後半のプロコフィエフ、ラフマニノフ、チャイコフスキーと続くロシア・プログラムにもそれは見て取れる。
「プロコフィエフの『ロミオとジュリエット』はシェークスピアの物語と違い、ジュリエットに重きが置かれているので、死を予兆させます。ラフマニノフの『ロマンス』などはチャイコフスキーの亡くなった年に書かれました。ラフマニノフはチャイコフスキーが大好きでした。そしてチャイコフスキーの『ワルツ・スケルツォ』は、結婚に失敗し自殺未遂を起こし、逃避行していたときに作曲しました。しかし、ハ長調で書かれました。かれんで華やかな曲です」
それぞれの曲の背景に何らかの形で死の影があるからといって、みな決して暗く陰鬱な曲ではないということが、作曲家と作品の関係のおもしろさだろう。