すべて受け入れ、あきらめない
悪人はいないのに誰一人幸せになれない理不尽さが息苦しい。夫の「罪」は西洋を知るインテリであったこと、娘の「罪」は学校で教わる思想を信じたこと、そして妻の「罪」はドアの鍵を開けなかったことと、夫の減刑を党幹部の男に陳情したことにすぎない。善良な家族が「狂った時代」に翻弄(ほんろう)され傷ついていく姿がつらい。がしかし、映画はどこまでも優しさにあふれている。登場人物は他人を責めないし時代のせいにしない。彼らはすべてを受け入れ明日を信じてあきらめない。まるで悲劇のど真ん中に希望の光がくっきりと差しているようだ。
殊玉の演技で描かれた名画のページをめくるように場面を追いながら涙が止まらなかった。北京オリンピックなどの国家行事の演出も手がけるチャン監督だが、強烈な検閲制度がある中国国内で自らの苦い体験を基に反右派闘争をにおわせる作品も作り続けてきた。許しても忘れない、だから伝え続ける。したたかでしなやかな生きざまが作品にそのまま映し出されている。(SANKEI EXPRESS)