こないだラジオで話したことが呼び水になって、幼い頃、自分がいつ巻き込まれるともしれない犯罪に備え、日々あらゆる訓練に余念がなかったことを思い出した。
心理戦で翻弄
たとえば、車のナンバー。誰かの誘拐現場を目撃したときに犯人逮捕の決め手となる証言を、なんどきもできるようにと、私は普段からなにげなく目に入った車のナンバーの数字を瞬時に記憶する特訓を繰り返していた。「わ00-25」なら「わわわ、おおにご!」と心の中で叫ぶ。そして「ニゴ」という謎の生き物、しかも特大サイズの「大ニゴ」が発見された世紀の瞬間をイメージし、発見者である少年が腰を抜かして驚いているヴィジュアルを、鮮明に記憶に焼き付ける。
家に帰ってからも、覚えているかどうかを抜き打ちで自分にテストし、朝になっても忘れていなければ、手帳に合格シールを貼っていいことにしていた。
または、もし、茂みの向こうで息を殺している犯罪者に気づいてしまったら、という状況の場合。そういう時は、まず鼻歌をハミングし、いかにも何かを探しているように地面の辺りに視線を走らせる。そして後方にさっと手を振ると、「おおーい、この辺、ちょうどいいんじゃなーい?」と声を張り上げ、自分には大勢の仲間がいることをそれとなく、だが確実にほのめかすのだ。