この光景は見たことがある。20年前の1995年のマスターズ。ベン・クレンショーは、大会直前に敬愛する恩師のハービー・ペニックが亡くなり、葬儀に参列して直接オーガスタ入りし、デービス・ラブとの激戦を制した。
18番グリーン。ウイニングパットを決めたクレンショーは、深く腰を折り、上体を沈めて歓喜の瞬間を迎えた。スピースの優勝シーンとそっくりだったが、テキサスの先輩、クレンショーがそのまま膝を折り、グリーン上で泣いたのと対照的に、顔を上げたスピースの表情は満面の笑みにあふれていた。
優勝者に贈られるグリーンジャケットを「2晩ぐらい着たまま寝るかも」と言った優勝談話も初々しかった。
2人の優勝シーンが重なって見えたのは、ともにテキサス出身のゴルファーである事実よりも、20年前と変わらぬオーガスタの18番が持つ独特の雰囲気が記憶を呼び起こさせるのだろう。最も感動的といわれたクレンショーの優勝シーンから、目をかけた後輩のスピースへ。主役継承のドラマは、18番の光景だけが紡いだものではない。