呼び起こされる帝国の歴史
イスラエルが懸念しているのは、イランの核開発だけではない。16日、東京を訪れたイスラエルの専門家が筆者にこう述べた。
「これで欧米諸国の制裁が解除されるならば、イラン経済は活性化する。その結果、イランはレバノンのヒズボラ、シリアのアサド政権、イエメンのフーシー派などシーア派への軍事を含む支援を強化する。イスラム教スンニ派に属する『イスラム国』(IS)が、イラクとシリアの一部地域を実効支配した後、中東では、スンニ派とシーア派の宗派間対立が強まっている。米国は、IS対策でイランとの協力を考えている。そのため核開発問題でイランに対する姿勢を軟化させたが、その結果、中東情勢は一層不安定になる。
イランの帝国主義的な拡張戦略に刺激されて、トルコが核武装を試みるとともに、周辺諸国への影響力拡大を図るであろう。今回の合意が引き金となって、イランではペルシア帝国、トルコではオスマン帝国の歴史を呼び起こすであろう」
このイスラエル人専門家の見方は、事柄の本質をよくついていると思う。宗教や歴史の記憶という定量化されない要因で、中東の構造変化が起きている。高度なインテリジェンス分析が必要になる。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)